作品名|コトバノイエ
設計者|矢部達也建築設計事務所 矢部 達也様

- コンセプト
- 国道から急な坂道をのぼりきって坂が緩やかになったところにある住宅地の一画。道路を隔てた北側にはまだ山地が残っている。
- 90坪の敷地のほぼ真ん中に25坪の正方形平面を置く。こうすれば室内のどこもが外とつながりをもてる。家は小さくても敷地は広いんだから敷地全体に住みたい。外とつながる必要のない納戸を真ん中に置いたら、ドーナツ状の平面になった。このドーナツ平面を緩い間仕切りで区切って、分かれてるけどつながってる、見えないけど声は聞こえる、行き止まりがなくてひとつながりの、ぐるぐる回れる部屋の連なりにする。四周の外壁面はできるだけガラス戸にして引き込めば、室内が縁側、庭と一体になる。
- 道路との視線のやりとりに配慮して、敷地に沿って透けた塀をまわした。この塀がこの家のいわば外壁の役割をする。本当の外壁(とガラス戸)は間仕切り壁の役割。透けた塀は内側からの視線は易々と通してしまうから室内は縁側、庭を抜けて敷地の外ともつながっている。一方、外側の道路からは意外と室内は見えないもので透けた塀はさしずめマジックミラーのようになった。
- SPF210の片側に9mmの構造用合板を打ちつけてできた「棚壁」を間仕切りとして必要なところに置き、その上に薄い屋根パネルを載せた構造。「棚壁」はそのほとんどに本が収蔵される。キッチンで食器棚に、玄関で靴箱にするためには、奥行きが足りないのでSPF204を付け足して奥行きを深くした。
- 縁側の上は屋根パネルが軒となって大きく飛び出している。室内と屋外が一体のつながりをもつとき、両者の中間に深い軒と縁側は欠かせない。天井と床だけがあって壁のないこの場所でのアクティビティは楽しい。
- 屋外と一体化する住まいは、採光と通風に優れ、省エネルギー、環境負荷低減に寄与している。熱源はガスを使用し、バランスのいいエネルギー計画をしている。
審査コメント
木原 千利氏[建築家]
「納戸を中心に置いたらドーナッツ状の平面になった」とある。建築主の趣味による本棚がこの住まいの主役であり、建物の構造の主役でもある。開放された外部空間への立て役者であり見え隠れする平面の独立性も兼ねている。家族の団欒が壁のない住まいの中に独創的に繰り広げられている。おそらく建築主とのコラボレーションで創り上げたのであろう。ローコストを追及された空間には四方開放された開口から自由に風が通り抜けることと思う。自然と共に暮す中、温水の床暖房を施されている事は、冬の寒さへの建築家の贈り物に思える。
中原 洋氏[編集者・建築評論家]
施主の人生にとって重要な意味をもつ本を納める本棚を、中央にコア状に置き、同時に本棚自体を建築的構造体としている点を評価したい。また本を巡りながらの暮らすこの家の回遊動線は、家族が互いの暮らしを身近に感じられるものとしても機能している。 中央に収納部分を置いた回遊性のプランの結果として、すべての生活場面、すべての部屋が外部に接する形になり、自然光が各部屋に十分に入ってくる仕掛けにもなっている。 最後に大きすぎない住まい、平屋であることによって暮らしを可能な限りこぢんまりとした控えめな形、過剰さを排した今という時代にふさわしい家づくりになっているといえるでしょう。
堀木 エリ子氏[和紙作家]
納戸を中央に配し、まわりの部屋はすべて外部と関わりを持っている。その壁や間仕切りのほとんどを棚にしてしまう「棚壁」というユニークな発想で顧客の要望を満たしています。ガラス戸にして引き込めば、室内、縁側、庭が一体になる四周の外壁面や、敷地に沿って透けた塀による室内と屋外のつながりも面白く、独創的な心地よさが感じられます。
加茂 みどり氏[住宅計画研究者]
住戸内は閉じた室をつくらず、さらに棚を構造体とすることで柱もなく、とても伸びやかな空間が実現しています。また、周囲に縁側をめぐらし、外部空間との親和性も高いと思います。本と親しみながらの、のびのびとした生活がイメージされます。また、住戸を囲む木の塀は、隙間をあけ、外部の視線に配慮しつつ、外界を拒絶しきらないやさしさがあります。こんな家で、是非子育てをしてみたい、と感じる住宅だと思いました。






